僕の仕事が「僕の仕事」として表に出ていくことは基本的にありません。そのため、「普段どんな仕事やってんの?」と聞かれたときに分かりやすく答えることがすごく難しいんですよね。
結果、せっかく興味を持ってもらっても往々にして「ヘェ~ソウナンデスネ~(何かゴニョゴニョ言ってるだけの怪しいボウズだなウム二度と話しかけないようにしよう)」くらいに着地しがちなのですが、一つ分かりやすくご説明できそうな事例を整理してみました。
※文中の画像は、実際の提案書からの抜粋です。
2019年、秋田書店の看板雑誌『週刊少年チャンピオン』の創刊50周年を記念した年間コミュニケーションで、上記ニュース動画でも取り上げられたイベントを山場として年間通じて様々な仕掛けを施し、下記のような社会的な価値還元にまでつなげることができました。
ペロッと「様々な仕掛け」などと書きましたが、これが中々のボリュームでございまして、ザザッと一通りご覧いただくと、まず50周年のポータルサイト。ここに全ての企画や情報が集約されます。↓
人気作品が「公約」を掲げ、実現してほしいものをファンの皆様に選んでもらう投票企画「セレクトマニフェスト」。開始から1週間足らずで合計250万票以上を獲得しました。圧巻の熱量です。↓
冒頭で収益金の寄付についてご紹介した「チャリティオークション」はこんな感じ。支援金額は当初目標の232%にも達し、ここでもファンの皆様の愛の深さを改めて目の当たりにしました。↓
次の「ドリームプロジェクト」は、作品に関してこんなことを実現したいけど応援して頂けますか?というクラウドファンディング企画。冒頭のニュースで紹介されていた展示物にも、ここから生まれたものが多くあります。↓
そして山場となるイベント『大感謝祭』。1969年7月15日の創刊から50周年を迎える2019年の同日に開催しました。「週刊少年チャンピオン 50周年」などでニュース検索するとたくさんのメディアさんが記事にして下さっていますので、ご興味ある方はチェックしてみてください。↓
イベントに合わせて、出張イベント型屋外広告「タダ読みステーション」も実施。新宿駅のメトロプロムナードに最新号が座って読める太っ腹なスペースを設けました。コスプレしたスタッフさんもご好評いただいていた様子です。↓
「大感謝祭」はオープンエリアとクローズドエリアに分かれ、オープンエリアは入場無料。クローズドエリアは抽選で選ばれた皆様をご招待し、ステージプログラムでお楽しみいただきました。↓
イベントの詳細については以下のページをご参照ください。様々な展示物や催しを用意し、ファンの皆様にお楽しみいただきました。↓
全てのベースになっているのは、弊社のサイトでもご紹介しているこのコピーです。
ステートメント(本文)も、後にサイトのタイトルにもなったタグライン「必死こいて半世紀。」も一言一句僕が書いてますが、自分の中から、ゼロから、この言葉が生まれたわけでは勿論ありません。
社長から編集者の方まで、部署も営業セクションから出版部門まで、幅広い社員の皆様にお集まりいただき、ワークショップを実施しました。
そこで皆さんには、
A:大事にしている思想・理念
B:週チャンがもっている強味・資産
C:将来的に、あるいはこの50周年をきっかけに、目指したい姿
を言語化してもらいました。
その言語化されたものを集約し、「BからCに至る道筋を、Aから外れないように設定した時、どんな言葉が相応しいか?」と考え、プロトタイプとなるコピーをこちらで作成。
今度は少人数あるいは個別に、そのプロトタイプをご覧いただきながらインタビューを実施。ワークショップでは言いにくいかもしれない、より個人的な部分にまで踏み込んでお話を伺いました。もちろん、ワークショップにご参加いただいた皆様全員と。
そのインタビュー結果を踏まえプロトタイプをブラッシュアップ。最終的なコピー案を社長および編集長にご覧いただき、ご承認頂いたものを、再度皆様にお集まりいただいてご決定頂いた、という流れです。
このプロセスを経たことで、週チャンに対してそれぞれの立場から様々な形の愛を持っていらっしゃる皆様の想いを取りこぼすことなく、言語化することが出来ました。
お忙しい中、こんなどこの馬の骨とも分からない綿棒のもったいないお化けみたいなボウズに話を聞かせてやる時間を割いていただきましたこと、この場を借りて改めて御礼申し上げます。
上記の一連のプロセスは、それそのものが僕の提案内容でした。
どういうことかというと、
前提1)この50周年企画のために宣伝部が立ち上げられた
前提2)週チャンの歴代編集長が、偉い人の中にたくさんいらっしゃる
前提3)僕に相談が来る前、ちょっと上手く進んでなかったらしい
これらの前提から、「あ。これ普通に企画案を出して宣伝部の方が上の方に提案しても漏れなく『そうじゃないんだよ、週チャンってのはさあ……』ってなるやつや。ていうか仮に僕が元編集長とかやったら絶対めっちゃ言うわ(←やめろや)」って思ったんですね。
だって、自分が育てて守ってきた大事な大事な看板雑誌です。自分なりのこだわりがあって当然ですよね。
そもそも50年分の感謝を支えてくださった皆様にお届けしたいのに、50年間ずっと会社にいた方は少なくとも宣伝部にはいらっしゃいません。間接的にでも良いから当時を知る人が必要です。
なので、僕がまずやったのはプロジェクトデザインでした。
50周年企画を「宣伝部のタスク」ではなく、「宣伝部が主導する全社プロジェクト」にすること。
それが成功の絶対条件だと思ったのです。(話をもらって一言目がこれでした。)
社長に入っていただくことは必須。決裁ルート上にある方々も全員。後々企画の実現の際にご協力いただく必要がある皆様も、なるべく漏れなく、最初から巻き込みたい。という無茶なご相談を宣伝部さんに申し立てました。
ここで凄いと思ったのは、それをすんなり(かどうか実際には分かりませんが)実現できた宣伝部の実力。新設の部署で、しかもたったお二人しかいらっしゃらないんですよ。頭が下がります。
その結果のワークショップだったのです。
ワークショップについてはしばしば誤解されていると思うのですが、ワークショップそのものからは何も生まれません。
何かを生み出せるかどうかは、生み出せる人がいるかどうかと、その生み出す人にインプットすべき何かを持っている人がいるかどうか次第です。
今回で言えば、成果物を僕が生み出すにあたり、必要なインプットを皆さんから山のように頂けたことによって、その後の企画全てのベースになるタグラインとステートメントが出て来ていますが、メイド・イン・ワークショップという訳ではありません。
そしてもう一つワークショップに関して重要なのは使い方です。
この事例では、決裁者の皆様およびその後ご協力いただく皆様と、スタートから想いを共有するための場を作るツールとして活用しました。全ての関係者と一緒に作り始めることで、後々のズレを最小限にできます。
このやり方は走り始めの負荷が大きいのですが、動き始めてからはスムーズに運びます。ご自分のお気持ちが入っているので、ご参加いただいた皆様が、その後追い風になって下さるのです。
このようにしてプロジェクトデザインから始まり、コンセプト(タグライン+ステートメントという一連の言葉)が生まれるまではご説明しました。
ここからは、具体的な企画が生まれる過程に話を移します。
最優先させるのは、「誰に伝えたいか」「誰にどうなって(思って)ほしいか」です。
好きな言葉ではありませんが、一般的には「ターゲット」と「パーセプションチェンジ」ということになるかと思います。
(やけに横文字が多く飛び交いがちなマーケティング業界ですが、上記の通り日本語の方が端的かつ明確でブレが無いと思いませんか? 完全に余談ですけど(笑)。)
前の章で触れたとおり、50年分の感謝を支えてくださった皆様にお届けしたいので、図にするとこんな感じです。
ここで読者様について詳しく見ていくと
・現在の本誌読者(週刊少年チャンピオンを読んでくださっている方々)
・過去の本誌読者(週刊少年チャンピオンを読んでくださっていた方々)
・作品ファン(個別の作品を楽しんでくださっている方々)
・新規読者(まだ週刊少年チャンピオンをお楽しみ頂けていない方々)
という整理ができます。
もっと細かく分けることも可能なのですが、細分化しすぎて施策が小さくなったり、届ける方法が無くなったりすると意味が無いので、これくらいがちょうど良い塩梅ではなかろうかと思います。
この皆様に対して、どういう流れで、どう思ってもらいたいかを整理したのが次の2枚のスライドです。
「自信」という言葉が出て来ていますが、これはファンの方から周囲の方へ話題が広がることを期待したかったからです。
自信を持って「チャンピオンって面白いんだよ!」と言ってもらえるようになりたかったんですね。
フォントの太さから見て取れる通り(笑)、本誌読者様や作品ファンの皆さんを特に重視していました。なぜなら「50年間支えていただいた感謝をお届けすること」が至上命題だったからです。
週刊少年チャンピオンからの感謝をお届けし、お楽しみいただきながら、あまり広く理解されていない(かもしれない)週刊少年チャンピオンの本質的な価値に触れていただき、更にファンになってもらいたい。
そしてこれから先も、週刊少年チャンピオンを楽しんでご愛読いただきたい。そんな全体構造だったのです。
(実際にはこの次に、コンセプトの分解と、時系列を含めたコミュニケーション構造の整理を行っていますが、ちょっと話が複雑になるのでここでは割愛します。実務上は極めて重要なんですけどね。)
ここまで前段を整えてから、初めてアイディア会議です。
これらを言わば「前提条件」として、どんなことをすれば目的が達成できるかを念頭に置きながら、作品を読み漁り、SNSの声を拾い、周囲にいるファンに取材し、アイディアを出し企画として形にしていきました。
勿論僕一人によるものではありません。kiCk inc.という心強い仲間たちと相談しながら施策に落としていきましたし、特に制作・実行・進行管理はkiCkのメンバーが中心です。
多岐にわたる複雑な施策を、彼らが大きな事故もなく完遂してくれたことで、皆様にお届けすることができました。チーム全員に改めて感謝。
色々な事情で惜しくもボツになった企画が山ほどあるので、機会を改めて実現できると良いなぁ。
すっかり長くなってしまいましたが、プロジェクトデザインからコンセプトメイキング、戦略構築、戦術設計、企画立案まで一連の流れの中で、僕がどんなことをやっているのか、何となくイメージいただけましたでしょうか。
ご紹介した通り、この企画は秋田書店の社員の皆様のご協力・ご尽力あってのものであり、全ての大本である作品を生み出しておられる作家の皆様、および作品を応援して下さる読者の皆様のおかげで実現できたものです。
もしまだ「良く分かんねーよ!」ということでしたら、それはもう、実際に案件をご一緒するしかありません(笑)。
正直申し上げて、稼働状況の問題でお断りさせていただかざるを得ないという可能性もございますが、断られても怒らず傷つかず、しかも実行の際は一緒に走って下さるという寛大かつタフな皆様からのご連絡をお待ちしております(汗)。
最後に、一つ記事をご紹介したいと思います。
この記事の中から、歴代編集長お二人のお言葉をお借りして、結びとさせていただきます。
「作家さんが描きたいものを作り、編集は面白いものを届けようとする。そうしてお互い必死こくと元気な作品が自然と集まってくるんです。あえてカラーというなら、どういう誌面のバランスになろうと“元気色”をしているんじゃないかと(笑)」(週刊少年チャンピオン九代目編集長/沢考史氏)
「新しい、面白い作品を読者の皆様にお届けすること。それだけです。これだけは50年前から変わらないことですし、50年後も変えてはいけないことだと思います」(週刊少年チャンピオン十代目・現編集長/武川新吾氏)
今回ご紹介した事例は、前半が「プロジェクトデザイン」、後半は「コミュニケーションデザイン」などと呼ばれたりする領域のお仕事と言えます。
これらを行う上で実務経験が必要であることは言うまでもありませんが、僕は無数の書籍からも多くの学びを得て、実務に活かしてきました。
その中から、特に今回の事例に含まれる、「コミュニケーションデザイン」と関連性の高いシリーズをご紹介しておきます。
僕にとって数名おられる「師匠」のお一人、佐藤尚之氏の著書4冊です。ご興味ある方は一度お手に取ってみてください。